―相続診断協会は、元々、どのような背景で設立されたのでしょうか?
元々、私は税理士をしており、中小企業のご支援お手伝いをしていました。
その中で、個人の相続のご相談を受ける機会が増えていきました。
ある時、ご主人を亡くされた家庭の相続案件で、お母さんと子ども2人が揉めている中、お母さんがふと「私の人生なんだったのかな…」とポツリと漏らしたのが印象に残りました。
この相続は、一人ひとりを回って相続税の申告者にサインと印鑑を頂きました。
こちらがいくら頑張っても「ありがとう」と言われることはなく、嫌われ役を買ってしまうこともありました。
中小企業が相手の場合とは、大きく異なる対応だったので戸惑いはありましたね。
相続の仕事は積極的にはやりたくないと思ったこともありましたが、やらない訳にはいかない。
まずは仕組みを整えることから始めようと思ったところから、相続診断協会の構想が生まれました。
― 相続診断士の資格を作った理由は何でしょうか?
相続が上手くいくには事前準備が必要で、エンディングノートなどがあると故人の意思を知ることができ周囲も納得しやすくなります。
一方で、それらがないと、制度に縛られて個々人の権利主張が強くなり、皆が納得いかないできない結論になるというのが感じた課題でした。
そのため、“事前準備をすることが争族回避に何よりも大事“と繰り返し伝えてきましたが、セミナー等で啓発をすることに限界を感じました。
相続の相談窓口は士業だけでなく、金融機関、生命保険会社、不動産会社など多岐にわたります。
相続の相談は士業よりもむしろこうした関連機関に話が持ちかけられるケースのほうが多いです。
そこで、彼らに窓口になってもらい、相続でお困りの方、準備をしたいが何をすれば良いかがわからない方を各専門家と結びつける仕組みを作りたくて、相続診断士の資格を作りました。
―相続診断協会は、具体的にどのような取り組みをおこなっているのでしょうか?
団体の活動は、基本的に相続診断士の資格付与などに留めています。
ただ、せっかく取得していただいた資格の活用方法がわからないという声にお応えして、資格者に向けて、具体的な資格の活用方法の説明セミナーを実施しています。
その他、各ご家庭の相続の状況を判断するために必要なツールを提供し、その説明なども行っています。
また、一般の方に相続について関心を持っていただくために、相続を題材にした落語を創作し、全国各地で「笑顔相続落語」を開催してきました。
相続診断士の試験は、協会が提供している教材と一緒にオンライン学習を行っていただいた後、CTB試験や団体試験などいくつかの方法によって行っています。
しっかり学習を行っていただければ、資格を取得するころには、相続にまつわる制度やコンプライアンスなど“相続について広く学べる”仕組みになっています。
資格取得後には、実務の現場でそれぞれの実例に合わせて適切な説明ができるように、30の項目で「争族危険度」が分かるチェックリスト「相続診断チェックシート」を作成し、提供しています。
このチェックリストは対象の家族の家系図を作成するなどし、相続に向けて何の準備が不足しているかなどを把握してもらう仕組みになります。
いくつかの項目をチェックすれば、税金がかかりそうか、トラブルが起こる可能性は高いかが分かり、争族危険度などを診断できるようになっています。
このチェックリストの使い方は協会マイページにある解説書で説明されており、相続診断士の皆さんが相続の問題点を見極められるようになっています。
― 相続診断チェックシートを合わせて活用することで、相続診断士のパフォーマンスは向上しますね!
もともと、相続の問題は➀納税資金②遺産分割③認知症の3つに大別できると言われており、まずは3つの問題について広く認識してもらい、事前にチェックする必要があると考えています。
例えば、人間ドックで問題が見つかれば、病気になる前に、これ以上進行しないように改善への取り組むことができます。
ただ、相続の場合はこうした機会がないので、問題を未然に防ぐことができませんでした。
相続は危険かどうか分からない一方で、危なくなってからでは遅いという側面があります。
この、未然に問題に気付く機能を、相続診断チェックシートが担ってくれています。
―全国で相続に関する勉強会も実施しているのですね
日本の相続問題は、地域によって問題が異なります。
たとえば都内の不動産業者の方が相続の知識に詳しくても、全国の不動産の価値を理解しているわけではないので、その地域の不動産の価値がわからなければ適切なアドバイスをすることはできません。
そのため日本全国で相続診断士会を開き、参加者に相続の問題事例について考えてもらったり、遺言書の書き方セミナーを行うことで、地域ごとに相続問題を解決できる仕組みづくりを行っています。
争族をなくすというミッションを共有する人たちのコミュニティを作れることも診断士会の良いところです。
その他だと毎年12月1日の協会設立記念日に「えがお相続シンポジウム」を開催しています。
これまでは、相続診断士ならではの相続事例を発表いただいたり、昨年は初のオンライン開催も試みました。
―コロナ禍での相続診断協会の活動はどうでしたか?
まず、活動の中で今まで実施してきた診断士会のリアル開催が困難になりました。
特に最初のうちは診断士会が1回も開催できない状況だったのですが、徐々にZOOMで開催できるようになりました。
相続の相談も、コロナがあるので来訪は控えて欲しいと言われることがありました。
しかしその中で、コロナで延期しているうちに亡くなってしまった事例も残念ですがありました。
相続を意識してから相談に来る方だと、すでに高齢で一刻を争うケースもあります。
我々からすると、「やれる時にやらないと遅い」という目の前の現実を強く実感し、より活動を頑張らなければいけないというマインドになりました。
最近ではリアルな相談も徐々に増えてきていますね。
―コロナ禍でリモートに移行したことで難しかった部分はありますか?
相続診断士試験は不動産会社の社員様などが集団で一室に集まり受験するタイプと、Webで受験するCBTタイプの2通りが元々ありました。
CBTタイプはコロナ禍でも問題なく稼働できたので、特に問題はありませんでした。
今後は試験を自宅で受けられるようなシステムを開発中です。
アメリカでは不正があったかどうかを目線などの僅かな動きをAIがチェックして判定するシステムがあるそうで、そちらの導入を進めていく予定です。
―相続診断協会の今後の見通しについてお聞かせください。
我々は、家族が「争族」で揉めてしまうのはあってはならない不幸だと考えています。
こうした不幸が今後起こらないようにするため、相続診断士10万人を目指し、今後も活動をしていきます。
そのためには、啓蒙の規模をどんどん増やしていく必要があります。
今後10万人、20万人と啓蒙をしていき、相続は問題が起こる前に対応することが社会に浸透していくようになるのが目標ですね。
(インタビューは以上です)