この記事の監修
元弁護士。
10年程度の実務経験があり、在職中は不動産売買など多数の案件にかかわり、企業や個人からの相談に応じていました。
その経験を活かしてライターへ転身後は積極的に不動産や法律に関する専門記事を執筆・監修しています。
プライベートでもマンションの転売によって大きな利益を得るなど、不動産取引のおもしろさを実感しました。
不動産の分野では法改正や制度改正も相次いでおり、判例も次々に出てきます。
日々勉強しアップデートしつつ、読者のみなさまへわかりやすく情報発信するよう心がけております。
農地を売却すると、税金が発生する可能性があります。
税金が発生したら、期限内に納める必要があります。
そこで今回は、農地売却にかかる税金の内容や、支払いをお得にするにはどうすれば良いかなどを詳しく解説していきます!
「税金の話題って難しいから読みたくない…」という方のために分かりやすく説明しているので、ぜひ参考にしてくださいね!
→
農地を売却する方法!田んぼや畑を売る流れ・かかる税金を紹介◎全国の農地すべて申込可能!ガイドに従って入力するだけ!
農地売却にかかる税金は、主にこちらの3種類です。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税、住民税、復興特別所得税
ここからは、それぞれの税金の内容を詳しく解説していきます。
印紙税
印紙税は契約書や領収証などの文書を作成するときにかかる税金です。
印紙税は、以下の税額分の印紙を契約書に貼り付けて納付します。
不動産売却代金 |
印紙税額 |
100万円以下 |
500円 |
500万円以下 |
1,000円 |
1,000万円以下 |
5,000円 |
5,000万円以下 |
10,000円 |
印紙はコンビニなどにも売っていますが、高額印紙が必要なので郵便局で購入しましょう。
→不動産売却時の印紙税の金額と賢い節税方法
登録免許税
農地を売却すると、所有権が相手へ移転します。
この所有権移転登記にかかるのが、登録免許税です。
農地にかかる登録免許税は、以下の通りとなっています。
- 売却価格の1000分の15(2021年3月31日まで)
- 売却価格の1000分の20(2021年4月1日以降)
例えば、2020年8月に農地を1000万円で売った時は、登録免許税は15万円となります。
また、所有権移転登記は司法書士に頼むのが一般的なのですが、この際に1~2万円ほどの報酬を支払う必要があります。
なお、所有権移転登記にかかる登録免許税や司法書士の費用については、買主が負担するケースが多数です。
その場合、売主は支払う必要がありません。
→不動産売却で司法書士は何をするの?売買契約は立会可?役割と費用相場を解説
譲渡所得税
譲渡所得税は、農地取得時に支払った費用よりも高く売れた際にかかる税金のことです。
譲渡所得税は非常に高額な上、仕組みが複雑なので注意が必要です。
譲渡所得税については詳しく後述するので、ぜひ参考にしてください。
まずは、譲渡所得税の計算式を紹介します。
◎譲渡所得税=税率×{譲渡価格-(取得費+売却費用) }
ちなみに、譲渡価額というのは農地を売った際の成約価格、取得費は農地を購入した際にかかった費用、売却費用は整地の費用や仲介手数料など、農地を売却する際にかかった費用のことです。
取得費がわからない時はどうする?
農地を親から相続した場合などは、購入時にいくら払ったのか分からないでしょう。
この時は、売却価格の5%を取得費とみなして計上し、計算します。
これを概算法といいます。
かかる税率は所有期間によって異なる
次に譲渡所得税の税率に関してですが、こちらは所有期間が5年以下(短期)か5年超(長期)かによって変化します。
また譲渡所得税が発生すると、金額に応じて住民税や復興特別所得税もかかるので、まとめて表にしてみました。
|
短期譲渡所得(5年以内) |
長期譲渡所得(5年超) |
所得税 |
30% |
15% |
住民税 |
9% |
5% |
復興特別所得税 |
0.63% |
0.315% |
合計 |
39.63% |
20.315% |
取得したばかりの農地は、5年経ってから売ると税金が約半額に抑えられるのです。
ただ、不動産相場はかつて2020年の東京オリンピックまでがピークと言われていた経緯があります。
現在では2021年にオリンピックが開催される見込みですが、それも定かではない状態で雲行きが怪しくなっています。
また、かねてから2022年以降は相場が低下するとも言われていました。
税金を多少抑えるより高く売れる時期に売却したほうがお得になる可能性もあります。
農地の売り時については相場も参考にしながら決定しましょう。
→不動産価格は今後どう推移する?市場・市況の動向・価格高騰がいつまで続くかの見通しを徹底解説【2024年最新】
所有期間の数え方に注意
短期譲渡所得と長期譲渡所得を分ける「所有期間」の計算方法にも注意が必要です。
不動産の所有期間は、取得した日から引き渡した年の1月1日までとして計算します。
つまり、2013年3月に取得した農地を2018年4月に引き渡す場合、普通に考えれば5年1ヶ月経過していることになります。
しかし、所有期間は2013年3月~2018年1月までとするので、まだ5年経っておらず、譲渡所得税が軽減されません。
2019年に入ってから売却しないと長期譲渡所得にはならないのです。
勘違いをする人は多いので気を付けましょう。
ここまで農地売却にかかる税金を詳しく解説してきましたが、普通の土地売却にかかる税金の仕組みとそこまで違いはありませんでした。
→土地を売った時の税金はいくら?税金の内容と節税方法
では、農地独自の特徴はどこにあるのでしょうか?ここから詳しく解説していきます。
農地独自の特別控除が使える
農地を売って譲渡所得税が発生すると、以下2種類の特別控除を使うことができます。
農地利用目的の譲渡の特例には、控除額が800万円のものと1500万円のものがあります。
それぞれの控除額と条件の違いは、以下の通りです。
控除額 |
条件 |
800万円 |
- 農用地区域内の農地を利用集積計画や農業委員会などの斡旋により譲渡した場合
- 農用地区域内の農地を農地中間管理機構や農地利用集積円滑化団体に譲渡した場合
|
1500万円 |
農用地区域内の農地などを農業経営基盤強化促進法の買入協議によって農地中間管理機構に譲渡した場合 |
わかりやすくいうと、基本的には800万円の控除、法律に則した買入協議によって売却した場合には1,500万円の控除を受けられると考えましょう。
次に、転用目的の譲渡の特例ですが、こちらは最大5000万円もの控除になります。
しかし、この特例は売主や買主が転用したいからといって利用できるものではありません。
国や自治体が主となり、「土地収用法」などによって農地が買い取られてしまった際に利用できる控除となっています。
誤解のないようにしましょう。
相続税評価額の計算方法が独特
農地を売る時は、親から相続した不要な農地を処分するために売却するケースも多いでしょう。
農地を相続したら他の遺産と同じように相続税がかかります。
不動産の相続税は、相続税評価額という独自の評価額に税率をかけて算出します。
ちなみに、相続税の税率は遺産の総額から相続税の基礎控除を引き算した価額によって決まります。
相続税には基礎控除があるため、基礎控除までは相続税が発生しません。
◎基礎控除=3,000万円+法定相続人数×600万円
各相続人の法定相続分に対し、相続税をかけ算して税額を計算します。
参考までに、1億円までの相続税の税率は以下の通りです。
法定相続分に応じた金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
なし |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
農地の相続税評価額を算出する方法は、こちらの3通りがあります。
どの方法を利用するかは、農地の種類によって異なってきます。
ここからは、農地の種類別に計算方法を紹介していきます。
→相続した不動産はどう評価される?相続税評価額を簡単に計算する方法
市街地農地は倍率方式か宅地比準方式で計算
市街地農地とは、その名前の通り市街地にある農地のことです
この場合の市街地は、「積極的な開発対象」という意味になります。
市街化区域内にある農地や転用許可を受けた農地などが該当します。
このケースの農地は、倍率方式か宅地比準方式によって相続税評価額を算出します。
原則的には宅地批准方式ですが、評価倍率方式を使ってもかまいません(財産評価基本通達40 市街地農地の評価)。
倍率方式
倍率方式は、固定資産税評価額に地域ごとに定められた倍率をかけ算して相続税評価額を算出する方法です。
◎固定資産税評価額×倍率=相続税評価額
各地域の評価倍率は国税庁が発表する財産評価基準書「路線価図・評価倍率表」から調べられます。
これは一般的な土地に関する相続税の評価方法で、農地以外の土地にも広く利用されます。
宅地比準方式
宅地比準方式は、以下の流れで評価額を算出する方法です。
- 【Step①】その農地が宅地であると想定
- 1㎡あたりの価格を出す
- 面積をかけて宅地価格を算出
- 【Step②】農地を宅地に転用する際の費用を計算
- 【Step③】最初に出した宅地価格から、転用する際の費用を差し引く
その農地を「宅地」とみなしたときの評価額から、「宅地として造成するためにかかる費用」を引き算するイメージです。
市街地周辺農地は市街地農地の金額の80%
市街地周辺農地とは、簡単に言えば市街地に準ずる地域の農地のことです。
市街化区域内にはないけれど、転用しようと思えば転用できる農地などが該当します。
積極的開発対象ではないけど、そこまで僻地でないような地域をイメージしてくれれば分かりやすいと思います。
このケースでは、上で紹介した倍率方式か宅地比準方式を計算した後、80%をかけることで相続税評価額を算出します。
中間農地・純農地は倍率方式で計算
純農地や中間農地は、簡単に言えば周りも農地だらけの農村地帯にある農地のことです。
これはイメージがしやすいのではないのでしょうか。
このケースは、倍率方式で計算します。
ここまで農地売却にかかる税金を解説しましたが、どうでしょうか?正直、計算はかなり面倒だと感じた方が多いでしょう。
特に農地は不動産会社を挟まずに個人売買されるケースも多いので、この辺はうやむやになってしまいがちです。
しかし、税金の納付は国民の義務です。
きちんと支払わないと強制徴収されるおそれもあり、延滞税も加算されます。
必ず適切に申告して期限内に納付しましょう。